1989年、セントラルパークでジョギング中の女性が暴行され、瀕死の重傷を負うという事件が発生しました。
警察の捜査において5人の少年が逮捕され、自白を強要されます。
少年5人に関する証拠は何も出てきていないにもかかわらず、食べ物も与えられず、眠ることも許されないまま長時間拘束され、自白を強要されます。
日本ではあまり知られていないですが、この事件、アメリカではニューヨークタイムズ紙が「1980年代に最も報道された事件」と評するほど知られた事件なのです。
彼らの苦悩を描いた『ボクらを見る目』、こころを揺さぶられます。
『ボクらを見る目』はどんなストーリー?
1989年4月にニューヨーク・セントラルパークでジョギング中の28歳の白人女性が暴行され、瀕死の重傷を負うという事件が発生。
アフリカ系アメリカ人とヒスパニック系アメリカ人の少年5人が逮捕され、自白を強要されます。ただ、この少年たち5人、互いにほとんど面識もないようなまったく無関係の少年なんです。少年5人は、食べ物や飲み物を与えられず、2日間も眠らされずに尋問が続いた少年もいたようです。
アメリカでは16歳から成人とみなされ、16歳未満の場合、尋問には親や弁護士等の同席が権利として与えられていますが、警察は保護者同席の権利を放棄する署名を書かせたりするなど、巧妙に尋問します。彼ら5人を最初から犯人と決めつけ、暴力や脅しを使い、証拠のため自白をテープに撮影するんです。
(ちなみに少年5人のうち、ひとりだけ16歳、残り4人は15歳以下でした。)
警察の捜査においては、少年5人に関する事件の物的証拠はまったく見つかっておらず、裁判で証拠として使われたのは、自白テープだけでした。しかもお互いにほとんど面識のないような間柄の5人なので、普段呼ばれてるあだ名とは違う名前で呼んでいたり、そもそも犯行現場が違ったりなど、矛盾だらけ。
にもかかわらず、裁判において少年5人は一部の罪で有罪と判決を受けてしまいます。
少年5人は、無実の罪で服役することとなってしまいます。
少年たちの信念
少年5人は逮捕された時こそ、やってもいない犯行を自白してしまっていますが、その後は一貫して否定し続けます。
裁判中、検察側が一部の罪を認めることで刑を軽くするような司法取引を提案してきますが、これを突っぱねます。犯してもいない罪を認めることはできないということですね。
また、仮釈放となるためには罪を認める必要があるのですが、この際も仮釈放を犠牲にしても罪を認めないという信念を貫き通します。
なお、当時ドナルド・トランプはこの事件について数百万ドルかけて、少年5人を死刑にすべきだ広告を出しています。当時から影響力のあったドナルド・トランプの広告によって、裁判の陪審員への影響があったとタイム誌が評価してます。
ただひとり大人として裁かれたコーリー・ワイズ
『ボクらを見る目』では、5人の少年ひとりひとりに対して裁判中からのその後までをフィーチャーしますが、わたしが特に心打たれたのはコーリー・ワイズ。
コーリー・ワイズは、事件当時唯一16歳だったため大人として裁かれ、ひとりだけ成人刑務所に15年程度入ることになります。(その他の4人は少年施設に5~10年。)
そもそもコーリー・ワイズが逮捕されたのは、友人であるユセフ・サラームが警察に連行される際に、「ひとりで警察に行かせてしまったらユセフのお母さんに悪いから」という理由なんです。そもそも容疑者のリストにも載っていなかったのに逮捕されてしまった。なんという心のやさしさ。それで結果として10数年も刑務所に入れられてしまうなんて想像もしなかったでしょうが、警察の捜査や裁判に欠陥があったとしか言いようがなく、なんとも言い表しようのない口惜しさが彼にはあったはず。
コーリー・ワイズは裁判において、検察側の質問に素直に答えてしまい、不利な状況に陥ってしまいます。そして「質問に答えてたら、不利な状況になったので、もう質問には答えない」と言うなど、彼の無知や幼さが本当に痛々しいですが、彼の純粋さをよく表しています。
この事件において、少年5人は「セントラルパークファイブ」と呼ばれアメリカでは有名でした。有名だということを理由にコーリー・ワイズは刑務所内でたびたびひどい暴行をうけます。
そんな中コーリーは、ifを考えるんです。
もしあのとき友人についていかずに彼女と一緒にファーストフード店にいたら。。。
彼女とコニーアイランドの遊園地に行って、カートで遊んで、ポップコーン食べて、大きなクマのぬいぐるみの景品をとって、最後にキスして。。。
全部コーリーの妄想。
もう戻れない過去を夢見るコーリー。
やるせないなぁ。
ちなみに、ラストシーン、コーリーがばっちり決めた格好で向かうのは、、、
少年たちの演技のすばらしさ
コーリー・ワイズを演じるジャレル・ジェロームは、コーリーの幼さや純粋さをホントによく表現できている。素晴らしいとしか言いようがないほど。
他にも、彼らの自白は基本的には自分は犯行を行っておらず、ほかのだれかがやっているのを見たというのが自白の主な内容なのですが、彼らが逮捕された直後に一堂に会する場面では、初めて名前と顔が一致する状況の中で、「きみが犯行を行っていたのを見た」と自白したという本人には絶対に言えないようなことを告白する場面があります。
その時の言おうか言うまいかの間や言い方が本当に素晴らしい。
おわりに
2019年のエミー賞リミテッドシリーズ部門には、以下のとおり多数ノミネートしています。
・作品賞
・主演男優賞(ジャレル・ジェローム)
・主演女優賞(アウンジャヌェ・エリス、ニーシー・ナッシュ)
・助演男優賞(アサンテ・ブラック、ジョン・レグイザモ、マイケル・ケネス・ウィリアムズ)
・助演女優賞(マーシャ・ステファニー・ブレイク、ヴェラ・ファーミガ)
・演出、執筆も
個人的には、コーリー役のジャレル・ジェロームは受賞すると思ってます!
(追記)ジャレル・ジェローム、エミー賞主演男優賞受賞しました!!
ちなみにこの『ボクらを見る目』、ロバート・デ・ニーロやオプラ・ウィンフリーがエグゼクティブプロデューサーとして参加してます。
実話としても衝撃的ですが、ドラマとしてもよくできた作品です。
Netflix入ってたら必ず見るべき。
Netflix入ってなくても『ボクらを見る目』のために入ってもいいくらい。
そのくらいオススメです。